本を選ぶのは誰か: PDAについて調べたこと

いまの部署のお仕事のひとつに、選書があります。といっても新刊については他の部署の方に選書してもらったものを取りまとめ、最終的な判断をするのみなのですが、時には蔵書構成の観点から自ら選択しますし、寄贈図書についてはすべて判断します。これまで雑誌の購読調査には関わったことがありましたが、「選書」に関わるのは初めてで、目下勉強中です。

選書基準を傍らに置いて選書をしていると、どうしても「この本は基準に合致しているかどうか」ということばかり考えてしまうのですが、この本を手に取るかもしれない見えない利用者さんの顔を思い浮かべてみるうちに、本当に求めている本を選べているのだろうか、とふと立ち止まる瞬間がありました。伝統的な図書館員や教員による選書ももちろん、図書館全体の蔵書をつくるという意味では必要と思いますが、最近はやりの選書ツアー・ブックハンティングというもので学生が自ら選んだ本は、圧倒的に貸出が多いのも事実でした(自館のデータで調査済み)。


というわけで、利用者が求める本をきちんと拾って選書するには、ということを考えているうちに、「POD(Purchase on Demand)」あるいは「PDA(Patron-Driven Aquisition)」と呼ばれる選書方法があることを知りました。アメリカの大学・研究図書館協会は今年の「大学・研究図書館の10のトレンド」のひとつに挙げているそうです。カレントアウェアネスさんが概要を紹介してくださっていますので、引用します。

E1306 - 2012年,大学・研究図書館の10のトレンド | カレントアウェアネス・ポータル
電子書籍を対象としたPatron Driven Acquisition(PDA
電子書籍を対象とした利用者主導型蔵書構築法Patron Driven Acquisition(PDA)が,大学・研究図書館の蔵書構築の標準となりつつあると紹介されている。また,電子書籍コレクションの永続的なアクセス保証のため,電子書籍のライセンス契約の内容や規格に求められねばならないこととして,電子書籍の貸出を容易にできるようにすること等が指摘されている。

前置きが長くなりましたが、「POD」「PDA」について調べてみたことを書いてみます。調査中ゆえ、いろいろご容赦を。


POD・PDAの二つの流れ
事例を中心に調べていると、なんとなく次のふたつの流れ・文脈があるような気がしてきました。
1. 電子書籍の新しい契約モデルとして
カレントさんもPDAを「電子書籍を対象とした利用者主導型蔵書構築法」と表現しているように、電子書籍に関する契約モデルのひとつと考えられるようです。
ユサコさんの「ユサコニュース」には次のような記述がありました。

ユサコニュース No.212(2010年11月号)
利用者主導の選書方法として近年急速に利用が増えているのが,Patron-Driven Acquisition(PDA)と呼ばれる電子書籍の契約モデルである。PDAは,ベンダーが機関に電子書籍へのアクセスを提供し,機関は,利用者によって一定の利用があったタイトルのみを購入する契約モデルである。PDAのメリットとしては,実際に使用されたタイトルのみを発注できること,利用者に多くのコンテンツを提示できること,書籍購入費用を抑えることができること,選書にかける図書館員の負担や時間を削減できることなどが挙げられる。現在複数の出版者が利用者主導型の選書モデルを提案しており,電子書籍ベンダー大手の米ebrary社も,PDAのパイロットプログラムを2009年9月から一年間実施し,その評価を踏まえ2010年10月より新しいPDAサービスを提供している。

2. ILLのサービス拡張手法として
もうひとつは、ILLで利用者からリクエストがあったものを、他機関から借りるんじゃなくて買っちゃうよ、という意味でのPDAです。
ILLでリクエストがあったもの、なので電子(書籍)に限らないという意味だと思います。

個人的に電子書籍全般についてまだ不勉強なことと、ILLの方に関心が強い(苦笑)ことから、二つ目のILLと関連したPDAについて事例を追いかけています。
そこで、その事例のひとつを紹介したいと思います。


CARLIのPurchase on Demand Pilot Project
CARLIとは、Consortium of Academic and Research Libraries in Illinois:イリノイ州の学術・研究図書館のコンソーシアムです。ILLでの連携、EJの契約交渉など、いろいろな活動をしているようです(About CARLI)。
このコンソーシアムが、2010年2月1日-3月5日という短い期間ですが「Purchase on Demand Pilot Project」という取り組みを行ったとのことです。
この取り組みの内容、結果などについてまとめてみました。情報源はこのあたり。

1. 背景
このプロジェクトは、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC:University of Illinois at Urbana-Champaign)図書館のLynn Wiley氏により、CARLIのProducts and Services Vetting Committeeに提案されたことが始まりとのこと。CARLIはI-Shareという共同目録を持っていて、I-Share参加機関(CARLI参加機関と一致するわけではないみたい)はそこからILL申込ができるようですが、Lynn氏は「I-Shareに入っていない、まだ購入されていないような新刊へもアクセスできるような新しい方法」を構築することを目指したようです。
その後プロジェクトはCARLIで実施されることが決まり、UIUCとCARLIが5000ドルずつ出し合ったとのことです。

2. 概要
「一定の基準を満たす、まだどこも所蔵していない図書の情報」を共同目録(I-Share)に入れ、それらにILLリクエストが入った場合、即座に購入し提供する、というのがこのプロジェクトのざっくりとした概要です。

  • I-Shareに入れる図書
    • 2008/11/1-2009/10/31に出版されたもの
    • アメリカで出版されたもの
    • 英語で書かれたもの
    • 価格は300ドル以下
    • YBPに在庫があるもの
    • 参考図書、教科書は除く
    • らせん綴じの図書は除く
    • オライリー、マクミランレファレンスのものは除く

対象となったのは約16,700の書誌レコード。「Acquired Upon Request Only—CARLI Pilot Program」という表示をつけて、UIUCのローカル目録とI-Shareの共同目録に入力されたとのこと。

  • リクエストがあったら
    • UIUCのスタッフがリクエストを再チェック(本当にI-Share参加機関に所蔵がないか、など)。
    • その資料の購入、カタロギングはUIUCで至急扱いで行われる。
    • 貸出は通常のILLと同じシステムに乗せる。
    • 貸出期間は4週間、1度だけ更新可能。
  • リクエスト後は
    • このプロジェクトで買った本はすべてUIUCの所蔵になる。

3. 結果

  • 795冊のリクエストがあった。
  • 190冊購入した。
    • うち半分は、所蔵がなかった
    • もう半分は、所蔵はあったが利用ができなかった(貸出規則のため、利用中のためなど)
  • 605冊は購入しなかった。
    • 7割がすでに所蔵があるものだった(!)
    • その他、基準に合っていなかった、旧版だった、など
  • 資料費平均は55ドル/冊
  • オーダーを受け、カタロギングし、利用に至るまでの所要時間は購入したほとんどのアイテムについて3営業日だった。
  • リクエストがあったもの、購入したものともに、分野は多様で、特定の分野に偏るということはなかった。


CARLIとUIUCはこの取り組みに手ごたえを感じたようで、現在はまた新たなプロジェクト「Patron Driven Acquisitions Project」が始まっています。こちらについてはまた次回。

「所蔵していない資料まで目録に入れる」という作業に驚きました。所蔵があってはじめて書誌を作る、ではないのですね。PDAを考えるとき、目録に対する考え方も変えなくてはいけないのかもしれません。
また、ILLと蔵書構築を結びつけるとき、買うか買わないかの判断をどう効率的にやるかがポイントだと思うのですが、あらかじめ基準を満たした資料のみデータを入れておくことによって、そこをある程度省力化しているのが賢いな、と思いました。