ILLを契機としたPDAの最初の事例

久しぶりにPDA(Patron-Driven Acquisition)の話題を。


9月に日本大学・小山先生の以下の文献が発表されました。

CA1777 - 動向レビュー:利用者要求にもとづくコレクション構築:大学図書館における電子書籍を対象としたPDAを中心に / 小山憲司 | カレントアウェアネス・ポータル

PDAとは何かということに始まり、電子書籍に関するPDAについて、事例を含めて解説されています。


一方わたしはあいかわらず、ILLリクエストをきっかけとして、冊子体図書をPDA方式で選書するという取り組みばかり追っています。
その冊子体PDAに最初に取り組んだ、バックネル大学(Bucknell University)の事例について文献を読みましたのでそのレビューを。

Borrow or Buy? Cost-Effective Delivery of Monographs / Perdue, J., & Van Fleet, J.
Journal of Interlibrary Loan, Document Delivery & Information Supply, 1999, 9(4), 19-28.
http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1300/J110v09n04_04

1. 大学及び図書館の概要

  • アメリカ・ペンシルベニア州にある学部教育を中心としたリベラルアーツ大学
  • 学生数はおよそ3500人
  • 修士課程も置かれているが、学生数は約175人と学部生に比べて少ない
  • 中央図書館はバートランド図書館(Bertrand Library)
  • 86万冊超の蔵書、何万冊もの逐次刊行物、200以上のデータベース 参考


2. PDAプログラム開始のきっかけ

1990年の夏、バートランド図書館のILL部門は業務量の増加に苦しんでいた。すでに業務のキャパシティは限界であるのに、秋学期にはILLの数はさらに増え、業務を効率化させつつ、よりタイムリーに、費用対効果の高いサービスを提供することが目指されていた。
またその頃、ペンシルベニアのライブラリーコミッショナーであったSara Perkerは、ILLを通して他館から図書を借りることは、自館の蔵書になんの価値ももたらさないと考えていた。ILLは即時に必要な情報を提供できる費用対効果の高い方法ではあるが、依頼者一人を満足させるだけであると彼女は主張した。
こうした状況を受けて、ILLの処理数を減らしつつも適切な文献提供を行う一方、図書館の蔵書にも利益を生み出すことを目指して、ILLでリクエストがあった本のうち入手可能なものは即自に購入し、自館の蔵書にするという試みが始められた。


3. PDAプログラムの結果

プログラムは1990年9月に始まり、調査は12月に行われている。
期間中、270タイトルの図書へのILLリクエストがあり、うち101タイトル(37%)を購入、残り169タイトル(63%)はILLとして処理されることとなった。
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(図の数字はタイトル数)
どのようなものを購入とするかという基準については明確に示されてはいないが、「入手可能なもの」、また「150ドルを超えないもの」との記述がみられる。一方、結局ILLが選択されたものは、購入するために改めて調査すると、絶版、在庫なし、未刊などのため入手不可能であることが判明したものなどである。


購入とILLのコスト比較

購入図書1冊あたりの平均コストは35ドルで、最も低いものが3.95ドル、最も高いものが129.55ドルであった。一方、ILLで本を借りるための平均コストは1冊あたり2.30ドルで、多くのリクエストは無料、最も高いものは9.11ドルであった。ただしどちらの場合にも、人件費やシステムに関する費用、送料なども関わるため、正確なコストを算出することは難しい。

購入とILLにかかる時間の比較

発売中で在庫ありの資料について、リクエストが行われてから入手までにかかる時間は、平均2週間半であった。一方、特定の本についてILLが実行されるまでの平均時間は6日であった。
受入部門のスタッフはおよそ週5時間、ILL部門のスタッフは週に8.5時間、ILLリクエストのあった図書に関する購入業務及びILLリクエスト業務に携わっているという。PDAプログラムによる購入図書の受入業務は、受入・目録担当の職員にとってはこれまでになかった業務の追加となるが、特に大きな負担はないとのことである。ILLの件数は、前年の秋学期と比較して25%の減少となった。

購入図書の貸出状況

購入図書のうち80タイトルはカタロギングまで行われ、利用者に貸出可能となった旨連絡がされたが、うち19タイトル(24%)は借りられないままであった。少なくともそのうち2冊は貸出不可の参考図書であることがわかっているが、残りは利用者にとってその資料が必要なタイミングに提供できなかったということなのだろうと想定された。もちろんこうしたことは通常のILLにおいても起こり得るが、それよりもわずかに高い割合であったという。
一方、貸出が行われた61タイトルのうち、14タイトル(23%)が、受入後最初の3か月以内に1回以上貸し出されている。


4. PDAプログラムによる購入資料の貸出状況(継続調査)

PDAプログラムはその後も継続され、特にプログラムで購入された資料の貸出状況について、詳しく調査が行われた。
1990年から1991年の間にPDAプログラムによって購入された図書(just-in-time)と、通常の選書によって購入された図書(just-in-case)の貸出状況を比較したところ、プログラムによって購入された図書のほうが多く貸し出され、その差は倍近くあった。
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また、購入後一度も貸出されない資料についても比較した。1990-1991年にPDAプログラムによって購入された135タイトルについて、1991-1994年の間に一度も貸出されなかったのはわずか5タイトル(3.7%)であった。一方、通常の選書によって購入された869タイトルのうちでは339タイトル(39%)であり、貸出という観点からすれば、PDAプログラムは効果のある方法であるということがいえる。


5. PDAプログラムから得られたもの

いくつかの問題点も見つかったが、バートランド図書館におけるPDAプログラムは概ね成功したと考えられている。その大きな要因は、プログラムによって購入された図書の貸出回数が多いことであろう。ILLで他館から借りるよりも1タイトルあたりのコストはかかるが、何度も貸出されることを考えれば、採算が取れていくと考えられている。
また、もう一つの大きな効果として、ILL部署と受入部署の協力関係が構築されたことが挙げられている。1991年の夏、ILLと受入の部署が統合された。ILL部署はPDAプログラムによって、これまでの「利用者からのリクエストを実行する」ことに付加価値を得、受入部署は利用者のニーズを把握するためILLリクエストを参照することができるようになった。



最初の事例ということで、この時点ではまだ分析されているデータも少ないですし、比較対象もないので、この結果だけでPDAを評価するのは難しいですが。
現在は多くの大学でPDAが実施され、事例報告もかなりあり、いろんな切り口でPDAで購入された図書について分析されていますので、それらももう少し丁寧に見ていきたいと思っています。
というわけで、まだ冊子体PDAにこだわります。