シェアードプリントを成功させるために考えておくべきこと

をずっと考えているわけですが。
そのための種がいくつか集まってきて、ようやくちょっとずつ線につながりだしたところです。

初心に戻って、総論的な論文の内容をまとめておく。

【シェアードプリントコレクションのための持続可能なガバナンスとビジネスモデル】
Payne, Lizanne. "Sustainable Governance and Business Models for Shared Print Collections". Shared Collections: Collaborative Stewardship. ALA Editions, 2016, p. 15-26.
Shared Collections: Collaborative Stewardship (An ALCTS Monograph) | ALA Store

メインテーマ

シェアードプリントコレクションを長期にわたって持続可能なものにするために必要な、ガバナンスとビジネスモデルの要素とは何か。

1. 参加資格を定める

  • 既存のコンソーシアムをつかう
    • すでにお互いに協力・信頼関係ができているので、シェアードプリント協定が結びやすい
    • シェアードプリント以外の事業もやってることがあるので、つぶれにくい
    • 例:
  • 新たなコンソーシアムを作る
    • 地理的に近い図書館や、共通のプログラムを持つ図書館とのコレクション共有
    • 参加機関の範囲を広げることを目的に、補助金が得られることも
    • 例:

2.方針やサービスを定める

対象資料の選定

  • 何をシェアードコレクションの対象とするか
    • 雑誌、図書、雑誌・図書両方、その他の資料(政府文書など)?
    • 所蔵が少ない資料を保護することに重点を置くべきか、それともスペースを再活用するために所蔵が多い資料に重点を置くべきか、その両方か?
  • コレクションの性質をどのように調べるか
    • 印刷体に対応する電子媒体の利用可能性(特に雑誌の場合)
    • 図書館が保存対象に指定するタイトル
    • 図書の貸出履歴
    • シェアードプリント参加館やその他のグループ(HathiTrustやOCLCなど)との間の所蔵重複

保存コミットメント

  • 保存責任が割り当てられた資料をどのくらいの期間保存するのか?
    • 長くするといいこと:資料の利用可能性が長く保証される
    • 長くすると悪いこと:資料を持っている大学が参加を敬遠し、プログラム自体の持続可能性が低下するかも
    • 短くすると:資料を保存する機関の負担が軽減される

保存場所

  • 集中型か分散型か?
    • 図書は分散型、雑誌は集中型が多い

所有権

  • 元の図書館が引き続き所有権を持つか、新しい所有者やグループ全体に所有権を移転するか?
    • 特に州立機関の場合、法的・財政的要件のために元の所有者が所有権を維持していることが多い

現物の検証

  • 所蔵や状態を確認するための現物検証を求めるか?
    • 検証するといいこと:「確かに保存されている」という他館からの信頼につながる
    • 検証すると悪いこと:かかる労力とコストが参加の妨げになる

所蔵の公開

  • シェアードコレクションの情報(例:保存責任など)をどのように公開するか?
    • ローカル目録、コンソーシアムの目録、WorldCatやPAPRなどの総合目録、その他のもの?
  • 公開する場合、どのように実装するか

資料の提供

  • シェアードコレクションを使いたい場合、リクエストはどのように行うか?
  • どのように配送(現物、電子、その両方)されるか?
  • 参加館に優遇措置(例:無償ILL、長い貸出期間、優先処理など)をとるか?

3.ビジネスモデルを定める

どのようなコストが発生するか

  • コレクション分析に関するコスト*1
    • ベンダーに支払う費用
    • 図書館スタッフの人件費(分析用データの準備、ベンダー作成のレポートの評価など)
  • 保存に関するコスト
    • 保存責任が割り当てられた資料を保存するためのスペース
    • そのスペースの維持費
    • そのスペースに対する機会費用(他の用途に転用できない)
    • 環境整備費(資料の保存に適した温湿度環境、セキュリティ環境を整える)
    • 移送費(集中型の場合/他館に欠号を送る場合)
  • 現物の検証に関するコスト
    • 人件費(現物を検索、検証、再配架、結果をメタデータに記録)
  • 所蔵の公開に関するコスト
    • 人件費(目録の更新)
  • 資料の提供に関するコスト
    • 人件費 ※優遇条件を課すなど、シェアードプリントによって新しいワークフローができる場合
  • 除籍に関するコスト
    • 人件費(シェアードプリント対象資料との重複を特定、除籍)
  • プログラムの管理に関するコスト
    • 管理者の人件費(進捗状況の監督、シェアードコレクションの利用状況の評価、プログラムに関する内外とのコミュニケーション、必要に応じた方針の改訂の管理など)
    • 事務局の人件費(ベンダーへの支払い、助成金の会計処理や報告書作成、会費の請求など)

どのコストを分担するか

  • かかるコストを、シェアードプリント参加館間で分担するコスト(=会費をとる)と、参加館が負うコストとに分ける
  • ASERL
    • 参加館間で分担するコスト:なし(プログラム全体の管理にかかるコストはコンソーシアムが吸収)
    • 参加館が負うコスト:対象資料の保存にかかるコスト
  • WEST
    • 参加館間で分担するコスト:プログラムのスタッフ人件費、運営費、コレクション分析、アーカイブ構築(欠号のないバックファイル、検証、所蔵公開)をサポートするための所蔵館への支払い
    • 参加館が負うコスト:参加館間で分担するコスト以外のすべて(資料の提供、除籍など)
  • CIC-SPR
    • 参加館間で分担するコスト:プログラムのスタッフ人件費、運営費、保存施設への資料の移送費
    • 参加館が負うコスト:資料の特定と提供、目録への情報の記録、保存施設を運営している大学へのメタデータ提供
    • 保存場所として指定されている施設が負うコスト:保存コスト
  • 問題:保存責任が割り当てられた資料を保存する図書館が負うスペースコストに対して、補償を行うべきかどうか
    • 賛成派:長期間の保存責任を負うことが奨励される
    • 反対派:保存責任が小さい図書館を含むすべての会員の会費を増加させる
    • WESTは当初、シェアードプリント対象資料を保存している図書館に対し補償(=会費の割引)を行っていたが、2014年に廃止した。

どのように分担するか

  • 会費決定のための費用分担モデルまたは式を作成する
  • 分担の目標:
    • 参加を促すものであること
    • 長期にわたってプログラムが持続可能となるような収益が得られること
    • 参加館が平等に貢献すること
  • 会費の要素:
    • 年会費:人件費やスペースに対する補償費などの継続的な固定費に充てる
    • 変動費:資料の借り受けなどの偶発的かつ予測不可能な業務の費用に充てる
    • プロジェクト費:コレクション分析などのプロジェクトに充てる
  • 分担のやり方:
    • 均等割:総固定費用/参加館数
    • 階層化:同様の規模(蔵書冊数や運営予算)の図書館が同様の料金になるように設定
  • ただ乗り問題への対処
    • 会員だけにサービスが提供されるようなワークフローにする
    • すごく低いレベルの会費を設定して入ってもらう

4.意思決定機構・事務局を定める

意思決定機構

  • プログラムの監督、重要な方針の意思決定を行う
  • 既存のコンソーシアムの意思決定機構に担ってもらってもいいし、新しく作ってもいい
  • 参加館が多い場合は代表館を決める

事務局

  • プログラム全体に関わる費用の会計処理などを行う
  • 費用がかからないなら必要ないこともある

5.協定、覚書を作成する

意思決定

  • 意思決定を行うのは誰か
  • いつどのような変更・見直しを検討するか

脱退

  • 最低限の告知期間
  • 財政的影響を最小限に抑える策(しばらくの間会費は引き続き支払うなど)

シェアードプリント対象資料を所蔵している機関の脱退

  • 対象資料を他の参加館に移管する(または少なくとも提供する)

新規会員の加入

  • いつ、どのように参加できるか
  • 加入時に課す義務は(コレクション分析など)

紛失または破損した資料の交換

  • その資料の所有館(または借りた館)が代わりの資料を用意する

協定の定期的なレビュー

  • 学術コミュニケーション環境や技術環境は変化するので、それに対応するよう保存協定を見直す時期を決めておく

まとめ

シェアードプリントコレクションを長期にわたって持続可能なものにするために、計画時に考えておきたいこと

  • この方針は、参加を妨げる、あるいは将来的な脱退につながる(=持続可能性が低くなる)ような、参加館への多大な追加コストを生むことにならないだろうか?コストを正当化するために十分な利益を全体にもたらす(=持続可能性が高くなる)だろうか?
  • ビジネスモデルは、図書館に対し今後も長期間にわたり料金を支払うことを義務付けている(=持続可能性が低くなる)か、それとも積極的な業務が発生している場合のみ(=持続可能性が高くなる)だろうか?
  • 会費の分担の求め方は、透明性があり、ほとんどの会員に平等に感じられるもの(=持続可能性が高くなる)だろうか?

*1:対象資料の選定にあたってコレクション分析が必要な場合がある。スプレッドシートで済む場合も、ベンダーと契約して高度な分析をしてもらう場合もある